2018年8月26日日曜日

見えてくる介護職のフリーランス化

見えてくる介護職のフリーランス化

「連載 いま、介護施設は〜ケアマネジャーMさん体験談 第1部グループホーム(下)」

リーダー裁量の業務方針
 2日目は前日とは別のフロアに。
 そこも日勤者2人体制だったが、彼らの挨拶で何かフロアが全体的に明るく感じたという。


 仕事はトイレ掃除からスタート。そしてフロアや利用者の部屋へと移るが、ここでは利用者の方も参加する。一緒に掃除をしたり、昼食作りの手伝いをしたり。

 フロアリーダーに尋ねると、各フロアの裁量でやり方が違うらしい。そこのフロアは出来ることは利用者にも手伝ってもらう考えだった。
 日中でも食堂にはほとんどの利用者がいて、部屋に籠っている人はいないようだった。 
 
 「テレビを見たり、新聞を読んだり。パズルや笑顔で世間話をしてたりと、みんながそれぞれ、楽しそうなんですよ。同じ施設なのにフロアによってやり方が違ってた。僕は、2日目のフロアの方が好きだなぁ。利用者の方と一緒に冷たい麦茶をいただいたりね」

 午後からの入浴介助は、前日と同じ3名入浴。やはり全て丸投げ状態だった。違うのはバイタル測定や着替えの準備、浴室との送り迎えは職員がやってくれたことだった。

 ただ、リーダーから「入浴するうちの一人は、昨日入所したばかりで、ここでのお風呂は初めてなんです。大丈夫ですか?」と聞かれ、そう言われてもなぁと思ったという。

スポット人員は織り込み済み

 入浴者の洗濯と浴室の掃除を終え、ひと段落。ジュースと果物の差し入れ。職員たちと小休止に。この時に、リーダーにいろいろと話を聞いたという。
 
 介護員不足が深刻で、本来なら日勤者は最低でも3人が必要だが、いまは常勤が2人しか置けない状況。
夜勤のシフトなども考えると、土日は1人の時もある。
 そのため、利用者とレクをしたくてもできない。人員不足から後回しにしてしまう仕事も多くあって、その部分を、今回のようなスポットの派遣に頼っている。
 リーダーは「多くのグループホームは同じような状況だと思いますよ。募集はしているようだけど」と話していたそうだ。

 Mさんは指摘する。
 「スポットの派遣がいなければ、利用者3人に対して介護職員1人という規定人員の確保も厳しい。以前、札幌市内のグループホームで夜間の火災事故で、多くの利用者が犠牲になり夜勤人員体制の見直しが叫ばれていたが、それどころではない」と。
 休憩を終え、利用者の方と一緒に洗濯物を干す。そして離床介助、トイレ誘導などを行い、最後に夕食の盛り付け補助を終えて、2日間のグループホームでの仕事が終わった。
 「施設見学会とは全く違う部分を体験できた。もちろんこれがすべてではないだろうが、各介護現場における深刻な人員不足の現状も改めて認識しました」とMさんは振り返る。
 一方で、スポット派遣や介護員のフリーランス化などが人員不足解消に繋がる可能性があるとも。
 「レクリエーションや外出支援ができなかったのは残念。それにしても数カ月振りの入浴介助は全身汗だくでバテバテでした。帰って来てからのビールは旨かったです」

 業務の標準化は進んでいるのか

 一般社団法人北海道認知症グループホーム協会がまとめた、2016年度事業所基礎調査集計結果によると、介護職員のうち、正規職員は57.2%、非正規は42.8%という割合だった。

 Mさんの体験談を聞いて関心を持ったのが、フロアによって雰囲気が違う印象だったという点。その要因が、フロアリーダーの裁量による業務内容の違いということだ。

 このグループホームでは、各フロアリーダーの裁量によって、業務方針が変わる。あるフロアでは利用者も一緒に作業することで一体感が生まれ、明るい雰囲気を醸し出している。またそうではないところもある。

 リーダーの資質によってその組織の生産性や活動能力、雰囲気は変わる。だからこそ、組織のマネジメントとしては、各部署のベンチマークなどを使い業務内容を標準化、より効率的な経営を目指すことになる。
 しかし、組織は人だ。
 標準化された上にリーダーの資質がプラスαされるならば、さらに効率化に期待がかかる。当然、プラスαの資質は、適正に評価されるべきであり、それがまた組織全体の生産性の向上につながっていく。
 こうした介護施設でも同様だろう。ただ、特殊なのは、要介護度によって標準化の内容が変わらざるを得ないことだ。そこが、この施設運営の難しい点なのだろう。

 今回、Mさんは、スポット職員が、織り込み済みともいえる深刻な人員不足の実態を報告。そして、介護員のフリーランス化というアウトソースの可能性も示唆した。

 日常業務の標準化による効率運営(経営)と裁量制によるプラスαの優位性。そこに専門職としてのフリーランスを登用することは、こうした介護施設の現状を打破する一つのヒントになるのではないかと感じた。まさにファリティマネジメントであろう。

*このリポートは、ケアマネのMさんが休暇を利用して短期スポットで働いた介護施設の体験談を聞き、記事化しました。                 (第一部終わり)


2018年8月25日土曜日

いま、介護施設は ケアマネMさん体験談 第1部グループホーム上

「いま、介護施設は」ケアマネジャーMさん体験談 

第1部グループホーム・上

 スポットに依存の職員確保

 介護施設の日常業務は、どうなっているのか?
 介護施設にはいろいろあるが、施設の種類によって働く人の業務内容は違うのだろうか。
 先日、介護老人保健施設で介護支援専門員(ケアマネジャー)として働くMさんから、介護職の日常について、話を伺う機会があった。彼は、ゼネコンやハウスメーカーで現場施工管理者に就いたり、建設専門紙の編集記者をしていた経歴を持つ。その彼が、休暇を利用し短期の派遣職員として働いた体験談を連載で紹介する。
(聞き手・武内=ColumnFM主宰者)

見学だけじゃ分からない
 「介護施設って、いろいろありますよね」と、Mさんは開口一番、多種多様な施設名を挙げる。
 介護付きをはじめとする各種有料老人ホーム、サ高住と呼ばれるサービス付高齢者向け住宅、グループホーム、特別養護老人ホームは特養、介護老人保健施設は老健施設、介護療養型医療施設は療養病床、経費老人ホームのケアハウス、シルバーハウジングの高齢者用住宅
 「自分が働いた施設はわかるのですが、ほかは想像する程度。この業界に働く者として、はたしてこれで良いのだろうか」と疑問を感じたという。
 これまでも時間を見つけてはいろんな施設の見学会に参加してきたという。だが、30分程度見学しては、どこでも同じような説明を責任者から受ける。それじゃ表面的にしか、わからない。
 そこで、思った。
 「どうせなら実際に働いた方が手っ取り早いのではないか」
 調べてみると、1日単位の短期派遣社員募集がある。早速、応募してグループホームを紹介してもらった。
 最初のチャレンジの仕事日数は2日間。

黙々と働いた初日 
 8月のある日。Mさんは、市内にある、利用者が27名の3ユニットの認知症高齢者グループホームに出向した。
 受付で挨拶し、その日の担当フロアへ。
 フロアリーダーに会釈をするも、挨拶もほどほどに「最初はトイレ掃除をして下さい」と、バケツと雑巾、ブラシ、洗剤を手渡された。
 せっせとトイレ掃除をしながらフロアをみると、利用者9名に対して職員は日勤者2名。1人は朝から昼食の準備、一方、フロアリーダーは黙々と書類とにらめっこ状態。利用者は3名が食堂、残りは各自の部屋で過ごしているようだった。
 トイレ掃除の次は、フロア全体と利用者の部屋の掃除。掃除機とモップ、雑巾を持ちながら汗だくでフロア内を動き回った。気がつけば、もうお昼。午前中は掃除で終わってしまったという。
 午後は何をするのか尋ねると、「今日は利用者3名の入浴日。着替えを準備して、バイタルを図って入浴させて下さい」と、体温計と血圧計を手渡された。着替えは各部屋に行って適当に選んでとのことだった。
 入浴介助があるとは聞いていた。
 「でも、初めて来た人に丸投げって、これが普通なのか。事故でも起こったらどうするつもりなのだろう。しかも、3人のうち2人は車椅子。介護度は」と、様々なことが頭をよぎったという。
 入浴着に着替え、利用者のバイタルを測り、無事に全員の入浴を終えた。
 一息つく暇もなく、今度は入浴した利用者の服の洗濯が待っていた。
 洗濯機が回っている間に浴室の掃除を終え、干してあった洗濯物を畳み、新たに洗濯物を干す。それを終えると、初日最後の作業は、夕食の盛り付け補助。
 「ほぼ、利用者や職員と会話をすることもなく1日が終わってしまった」という。(続く)


2018年8月14日火曜日

FMの理解は難しいか(雑感)

    このところ、農業、水産、医療、食と物流の関連業界に、ファシリティマネジメントの重要性を伝える機会が続いた。早い話が、専門業界紙や専門メディアに話を持ちかけたのだが、興味を示すところはゼロだった。
 なぜか。
 根本はおそらくこういうことだろう。
 個々のケース、企業にとって役立つ事例だとわかっても、それは業界全体の共通課題ではない。
 つまり、コアの課題ではないので、それぞれの業界の専門メディアでは取り上げるべきテーマではないのだと。
 だが、そこがFMのFMたる所以なのだ。
 わかりやすく言えばFMのF、ファシリティは、ノンコアの分野だ。ノンコアをマネジメントすることで、コアを支え伸ばす。だが、ノンコアだけを扱えばいいということではない。分離して考えるべきではない。ノンコアがあってこそ、コアがあるという図式を理解しなければ、失敗する。
 現状は、専門業界のメディアがFMをきちんと理解しようとはしていない。存在そのものにも気づいていなかっただけかもしれないが、ただそういうことだ。残念ながら、既存の専門業界メディには理解できないのだと、考えることにした。そう烙印を押した。まぁ、土壌ともいえる建設業界においても、似たようなものではあったが。
 ノンコアは、専門業界のコアではない。だが、専門業界の共通のノンコアだ。そのマネジメントは、その専門業界で成り立っている地域経済のマネジメントに繋がり、最終的には町や国、人々の生活にも関連してくる。ここに気づき、FMを取り入れる企業、組織は盤石だ。そうではいところは、外部勢力に飲み込まれていく。
 ならば、既存業界メディアは相手にはならず、直接訴えていくしか方法がない。つまりは自分でやるしか、やはりないのかと。

 ここで、関連する書籍の紹介をいくつか。

 図書館で、発見した本を、改めてネットで注文。以前に何度買っては売り払い、再三また探して入手することもある。読み終わってもまた読み返えしているものも混ざり、最近の同時並行して読んでいる本はこの5冊。
 けっして、企業のマネジメントの本だけではないが、いろんな面でFMのことを考えさせられる。
・森の昆虫誌〜北海道の自然を考える(1986年、坂本与市)
・自分の仕事を作る(2003年、西村佳哲)
・自然が正しい(2010年、モーリス・メセゲ)
・<インターネットの次に来るもの>未来を決める12の法則(2016年、ケヴィン・ケリー)
・デジタル・ジャーナリズムは稼げるか(2016年、ジェフ・ジャービス)
 最も新しく入手した本は、なんとこれらの中で最も古い「森の昆虫誌」。ダメ元でアマゾンで探して、発見した。新刊でなんて必要ない。こういう本は古本だからこそ、価値がある。届いてみると、しっかり書き込みもあった。
 著者の坂本与市先生は、観察力が素晴らしい。直接、先生の講演を聞いたこともあったが、ウイットに富んでいる。しかも示唆にも富んでいる。
 「北海道の自然を考える」という副題がついているが、坂本先生が伝えたかったのは、最後の章、ギシギシ=蓼を食う虫のことだと思う。
 
 最近、新刊本で買ったのに、いつもザックに入れてボロボロになっているのが「デジタルは…儲かるか」。
 ジャーナリズムは、読者や視聴者との二人三脚でありコミュニティのまとめ役、けっして立場は一般の人の上ではないと訴える。発刊当時に発見すべきだったが、遅すぎたとは思いたくない。
 「自分の仕事…」は、もう何度も読み返し、新刊を手放し、文庫で見つけ、何処に紛れてしまい改めて古本で買い求めたものだ。東京のファシリティマネジャーで元建築雑誌の編集者だった方に作者の西村さんついて話を聞いたことがあったが、デザインの人なのに、この本では「働き方研究家」の肩書がついている。
 読まれている方も多いとは思うが、どこぞの内閣が、必死に進めている名目だけのものとは違って、しっかりと地に足の着いたまさに様々な分野で活躍しているFM実践例でもある。


2018年8月9日木曜日

日経ニューオフィス賞、道経産局長賞に千幸社札幌本社ビル

日経ニューオフィス賞、道経産局長賞

千幸社札幌本社ビル

 2018年度第31回日経ニューオフィス賞がこのほど、発表になった。日本経済新聞社とニューオフィス推進協会(NOPA)の主催。北海道関係では、北海道ニューオフィス推進賞(北海道事務機産業協会共催)で、道経産局長賞に千幸社札幌本社ビル(札幌)が選ばれた。
 千幸社札幌本社ビルは、札幌市白石区にある。同社は1971年創業。商業店舗、特注家具の企画、デザイン、設計、制作、施工までを手がける。

 地域ブロック主催の奨励賞では、知事賞にアクセンチュア北海道デリバリーセンター(札幌市)、札幌商工会議所会頭賞にコミカミノルタジャパン札幌オフィス西(札幌市)、北海道事務機産業協会会長賞にコーンズ・エージー本社ビル(恵庭市)と三ッ輪商会札幌支社ビル(札幌市)がそれぞれ選ばれた。

2018年8月5日日曜日

病院・老健施設は外断熱で健康に

病院・老健施設は外断熱で健康に

実現の鍵は、どこに?


 「病院・老健施設の外断熱を考える」をテーマにしたセミナーが先月(7月)、札幌市内で開らかれた。日本外断熱協会(堀内正純理事長)の主催。理事でイーサイ代表の岡崎俊春氏が、福知山市にある京都ルネス病院の事例を報告。適切な外断熱建物が、高性能な省エネルギーを図るZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)を実現させ、入院、入居者だけでなく、施設で働く職員たちにも快適な環境を提供できると訴えた。参加者たちは、病院・老健施設における外断熱工法の普及を図るため、連携を図っていくことを確認した。

 京都ルネス病院(冨士原正人医院長)は2016年9月に、老朽化と耐震対策のため移転新築した。
 高気密高断熱の外断熱工法と湿式調湿機を採用。照明もLEDで省エネルギーを図り冷暖房負荷の低減も図った。さらにBCP対策としてコ・ジェネレーションシステムを設置。2014年度の住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入惻隠事業でZEB事業の認定で3億円の補助金も得た。

 また病棟を診療科別ではなく重症度別に配置。患者本位の医療体制に。病床も20床減らし173床に。随所に木製サッシをはじめ、北欧家具を取り入れ、いやし空間デザインによるアメニティの質的向上を狙ったという、まさにヘルスケアFMを実践している。


 このセミナーで思い出すのは、旧・夕張医療センター改修プロジェクトだ。
 財政破綻した夕張の市立病院が公設民営診療所として再スタートした際、診療棟の集約化を図り、3階建ての施設だったものを1階のみを使用、ほかを閉鎖。メーカーらの協力で高断熱複層ガラスと樹脂サッシが贈呈され、従来、7千万円かかっていた光熱水費中心の年間維持費が5千万円まで圧縮できた。

 プロジェクトでは、室工大の鎌田紀彦教授(当時)と北大工学部の羽山広文准教授(当時)が断熱シミュレーションを実施。2009年3月にその報告会が行われ、窓などの開口部中心の高断熱化で年間四百万相当の重油削減が見込まれ、投資にかかる4千万円も10年で回収できること、また天井への吹付け断熱の代替案として、閉鎖部分の2階床に断熱材を敷き詰め、窓の高断熱化と合わせると年間380万円の暖房費の削減になることなどが明らかになっていた。

 当時、医療センター長を務めていた故・村上智彦理事長は「医師をいくら増やしても脳卒中は無くならない」と、住環境の高断熱化の必要性を指摘。わずかな投資で改善できる住環境の断熱改修整備を公共事業で取り組むよう、訴えていた。


 今回の「病院・老健施設の外断熱を考える」セミナーでも、適切な外断熱によって、過剰な設備投資も少なくなり、暖冷房に費やすエネルギーコストも抑えることができるほか、入院、入居者だけでなく、施設で働く職員たちにも快適な居住空間環境を提供できるとの意見があった。

 北海道から高断熱高気密の住宅やビルの普及が叫ばれるようになってすでに30年以上は経過しているが、けっして十分に浸透しているとは言えない。
 それにはさまざまな要因がある。
 高性能な設備機器の導入による省エネルギーを促進させたい考えと、外断熱工法のように住宅やビルの構造システム全体で高断熱化で実現させようとする考えが場合によっては相対してしまうケースがあるからだ。
 しかし、関係省庁間の主導権争いに巻き込まれてはいけない。今回のセミナーにおいても国交省、経産省、厚労省が関連し、名目だけでなく実質的な連携がいかに重要かはまさに関係者は実感していることだろう。

 *ZEB=年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物。住宅の場合はZEHと呼ばれる。